赤ちょうちんの灯りと香ばしい匂いに誘われて、
つい足を運んでしまう焼き鳥屋さん。
メニューを眺めていると「焼き鳥」と漢字で書かれている場合と、
「やきとり」とひらがなで表記されている場合があることに気づきませんか?
なんとなく同じものだと思いがちですが、
実はこの二つにはきちんとした違いがあります。
本記事では、「焼き鳥」と「やきとり」の違いをはじめ、
歴史や部位の特徴、豆知識まで詳しく解説します。
焼き鳥の始まりと発展の歴史
焼き鳥文化は、日本人にとって身近な食習慣のひとつですが、
その起源は平安時代にまでさかのぼります。
当時、京都・伏見稲荷大社の参道では、
稲作を荒らす雀を捕まえ、串に刺して焼いて食べていたとされます。
これが焼き鳥のルーツです。
当時は鳥だけでなく、うずらなど小鳥も食材として使われていました。
今でも伏見稲荷では雀やうずらを使った焼き鳥が名物として残っています。
江戸時代になると、
1682年の料理本『合類日用料理抄』に「焼き鳥」のレシピが掲載されており、
キジ肉を使った豪華な焼き鳥も登場しました。
明治時代には屋台文化が広がり、
焼き鳥は庶民の味として親しまれるように。
さらに昭和30年代の高度経済成長期には、
アメリカから安価なブロイラーが大量に輸入されたことで、
焼き鳥は一気に大衆料理として全国に広まりました。
「焼き鳥」と「やきとり」の違い
「焼き鳥」と「やきとり」は一見同じようですが、
使われるお肉や地域性に違いがあります。
- 焼き鳥(漢字表記)
主に鶏肉を串に刺して炭火で焼き、
塩やタレで味付けした料理を指します。
全国的に「焼き鳥」といえばこのイメージが強いでしょう。
- やきとり(ひらがな表記)
地域によっては、
鶏肉以外の豚・牛・馬肉や臓物を使った串焼き料理も「やきとり」と呼びます。
例えば「日本三大やきとり」の街では、その違いが顕著です:
- 埼玉県東松山市:豚のカシラ肉に味噌ダレをつける
- 北海道室蘭市:豚肉とタマネギを甘辛ダレで焼き、洋がらしを添える
- 愛媛県今治市:鶏肉を鉄板で焼き上げる独自スタイル
さらに、北海道釧路市ではエゾジカを使った「阿寒やきとり丼」、
福岡県久留米市では魚のししゃもを串焼きにするなど、
地域によって驚くほど多様なスタイルがあります。
個性豊かな焼き鳥の部位
焼き鳥の魅力は、部位ごとの味や食感の違いにあります。
代表的なものをいくつか紹介します。
- もも:定番中の定番で、ジューシーな味わい
- ぼんじり:尾骨周りの脂のりが良い部位
- レバー:肝臓部分で、白レバーは特に脂がのって濃厚
- ハツ:心臓部分で、コリッとした食感が特徴
- 砂肝:筋胃部分で、シャキシャキとした歯ごたえ
- つくね:鶏ひき肉を練って丸めたもので、店ごとに味付けが異なる
- 皮:首回りの皮を使い、パリッと焼き上げるのが人気
- 軟骨:胸骨や膝の軟骨部分で、コリコリとした食感が楽しい
このように、
ひと口に焼き鳥といっても部位ごとにまったく異なる個性を楽しめます。
「ねぎま」は本来マグロだった
焼き鳥の定番メニュー「ねぎま」。
今では鶏肉とネギを交互に刺した串を思い浮かべますが、
元々はマグロの脂身を使っていました。
江戸時代、マグロのトロは今と違って安価な食材で、
ネギと一緒に串に刺して焼いた料理が「ねぎま」でした。
その後、マグロが高級食材となるにつれ、
保存性の高い鶏肉に置き換わり、
現在のスタイルが定着しました。
「ちょうちん」と「きんかん」は同じ物?
焼き鳥好きの間で特別視されるのが「ちょうちん」。
鶏の卵巣の中にある卵黄部分「きんかん」と、
それに繋がる卵管「ひも」を串に刺して焼きます。
きんかんは直径3cmほどで鮮やかなオレンジ色をしており、
柑橘の金柑に似ていることからその名が付きました。
一方「ちょうちん」という名は、
赤提灯のような見た目から由来しています。
この部位は鶏1羽から1本しか取れない希少品で、
提供している店も限られています。
もし見かけたら、
ぜひ一度試したい逸品です。
ハツの名前の由来
「ハツ」は鶏や牛、豚の心臓を指しますが、
その語源は英語の「hearts(ハーツ)」がなまったものだといわれています。
独特の食感と旨味で、
焼き鳥ファンから高い人気を誇る部位です。
焼き鳥が串に刺される理由
現在では当たり前の「串刺し焼き鳥」ですが、
江戸時代までは提供時に串を抜いて出すのが一般的でした。
しかし、屋台文化が盛んになると
「串のままのほうが食べ歩きに便利」と人気に火が付き、
そのまま定着したといわれています。
また、串のまま食べるほうが肉汁を逃がさず、
熱々のまま楽しめるという利点もあります。
特に本格的な焼き鳥店では、
一番上の肉を大きくしたり、味付けを工夫したりと、
串全体のバランスを考えた仕上げになっていることが多いのです。
まとめ
「焼き鳥」と「やきとり」は同じ料理を指しているようで、
実は歴史や地域性から生まれた違いがあります。
- 焼き鳥:鶏肉中心の炭火串焼き
- やきとり:豚肉・牛肉・魚など、鶏以外を使う場合もある
- 地域によって調理法も味付けも異なる
- 部位ごとに豊かな個性がある
香ばしい匂いに誘われる焼き鳥ですが、
その背景には長い歴史と多彩な文化が詰まっています。
次にお店で注文するときは、
部位や地域性を意識してみると、より深く楽しめるでしょう。